大崎リサイクルシステムの展開に向け、長崎県対馬市に現地調査へ

展開 視察

大崎町SDGs推進協議会では、リサイクル率83.1%を誇る大崎リサイクルシステムを他の自治体でも実践することを通じて、大崎町だけでなく社会全体で環境負荷を減らすことを目指すプロジェクトを展開しています。

本プロジェクトでは、我々が他自治体の現地調査をしたり、大崎町での視察受け入れを通じて、他地域への展開の可能性を探ることでサーキュラーエコノミーの実現を目指します。

新潟県妙高市に引き続き、今回は長崎県対馬市に伺い、生ごみの堆肥化やそれに伴うシステムの適正化の可能性を探るため、ごみ処理施設の視察や行政担当者との打ち合わせを行いました。

離島特有のごみ問題を抱える対馬市

対馬市は、長崎県北部に位置する人口約3万人の島です。ほとんど平地がなく、海に囲まれた地形を活かした、漁業や林業が盛んです。

烏帽子岳からみた浅茅湾の様子。海の向こうにはうっすらと韓国の山並みが見える

自然豊かな対馬市ですが、ごみに関しては、離島であるが故の課題、そしてここ対馬市特有の課題を抱えています。

そのひとつが、市民一人当たりのごみ処理経費。年間一人あたりのごみ処理経費の全国平均は約16,400円(*1)ですが、それと比較して、対馬の年間処理経費は約39,000円(*2)と、約2.4倍もの差があります。

今回は、経済的コストを削減し、環境負荷も下げるために着手できることを探るため、主に2つの視点から調査を行いました。1つ目は可燃ごみの削減、そして2つ目が海岸への漂着ごみの実態把握です。

  • (*1) 環境省による「令和元年度 一般廃棄物処理事業実態調査の結果について」より
  • (*2)対馬市による「対馬市生ごみ資源化に係る基本的な計画(地域計画)案」より

可燃ごみの処理方法と課題

可燃ごみを処理する焼却処理施設は、島内にひとつで、しかも島の南部に位置しています。また、ごみを集積する中継所が、島の北部と中部に1ヶ所ずつあります。各中継所を見学しましたが、対馬市は南北に約80kmの距離があるため、島内での運搬の大変さを痛感しました。

対馬クリーンセンター。焼却炉があり、島内全域のごみを処理している

また、島内でごみの処理を完結させることは難しく、焼却で出た飛灰、島内で処理できないごみ等の島外輸送が必要です。

島内だけではなく、島外へ運搬が発生するのは、近隣や広域での処理が難しい、島ならではの問題だといえます。これらにかかっている経済的コストや環境負荷は改善の余地が十分にあると感じました。

最終処分場の様子

可燃ごみ減量のための生ごみ堆肥化

現在、可燃ごみの削減に寄与すべく対馬市が取り組みはじめたのが、生ごみの堆肥化です。

対馬市では、すでに全1万4650世帯(令和4年10月31日時点)のうち、1/7程の約2000世帯が生ごみの回収に協力しています。

生ごみを可燃ごみから取り除き、分別することで、可燃ごみ全体の重量と水分量が大きく減少します。燃やすものの量が減り、かつ燃えやすくなることで、助燃剤(対馬の場合は白灯油を使用している)の使用量も減り、焼却にかかるコストとCO2排出量の削減、また関連施設の運営コスト・島内外への運搬によるCO2排出量も削減が見込めると、我々は考えています。

そこで、対馬市と協力し、生ごみの堆肥化を通じた可燃ごみの処理システムの最適化を図れないかと考え、関連施設を見学しました。

現在、生ごみの堆肥化に使われている施設

そして今回、対馬市内でも生ごみ堆肥化に活用できそうな施設を複数見学しました。今すぐにでも活用できそうな施設もあり、生ごみの回収を行う世帯の拡大や、運搬の最適化において、活用できる可能性は非常に高いと感じています。

島外からの漂着ごみの実態

対馬市が抱えている課題のふたつ目は、島外から漂着する海ごみです。韓国 釜山市への船の直行便が出ている(現在は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で休止中)ほど海外との距離が近い対馬には、日本だけでなく海外からも大量のごみが漂着します。その量は、昨年度のデータでなんと32,105立方メートル。重さにして約2,714トンものごみが海岸に流れ着いています(*3)。

漂着ごみの処理にかかる費用は、年に約2億8000万円。そのうち9割が補助金ですが、残りの1割は対馬市が負担している状況です(*4)。これらの解決のため、対馬市をはじめ、様々な企業との連携や団体の活動が進められています。

調査最終日、一般社団法人MITの代表理事の吉野元さんに調整いただき、海岸の清掃活動に参加しました。海岸に到着してすぐ目についたのは、ごみで埋め尽くされた砂浜。実際に現場を目にすると想像以上の衝撃で、ずっとごみの上を歩いているような感覚でした。ある参加者の方がおっしゃっていた「ごみ箱からずっとごみを拾い上げている気分ですね」という言葉が本当にしっくりきてしまうほど。改めて、捨てる前の段階である、ものの作り方や使い方にアプローチする重要性が身に染みる体験でした。

15人程度で約2時間かけて拾ったごみ
ごみ拾いをするボランティアの皆さん
対馬クリーンセンター中部中継所。海岸で回収された漂着ごみの前処理も行っている。
1年間にフレコンバッグで約8000個分の漂着ごみが回収されているそう
手作業で漂着ごみの異物や汚れを取り除いているそう

最後に

対馬市では初めての現地調査となりましたが、市役所の方と、ごみ処理の施設を回りながら大崎町でのごみ処理に関する施設との違いに驚く一方、前のめりで質問をしている自分に気づきました。対馬市の現状と課題を自分の目で見たからこそ、大崎リサイクルシステムの展開が秘める可能性の大きさを感じたのだと思います。

廃棄物処理の仕組みには、対馬市の主要産業や地形などが影響しており、地域による違いを感じることができました。大崎町の住民の皆様が積み上げてきたノウハウを活かし、対馬市の地域性、暮らす人々に寄り添うやり方になるよう、力を尽くしたいと感じる調査となりました。

 (文・アシスタントディレクター 森川和花)

プレスリリース 

なし

クレジット 

ご協力いただいた方々

  • 対馬市役所 市民生活部 環境政策課
    • 課長 阿比留正臣 様
    • 係長 池渕真一郎 様
    • 主事 龍井魁都 様
  • 一般社団法人 MIT 代表理事 吉野元 様
  • 海ごみ拾いのボランティアの皆様
TOP